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「ハムレットが、4人います。」

 

昨年度の『ジュリアス・シーザー』に続き、今年も海城高校1年生と先生方の有志からなるみなさん、そして信頼するプロの俳優・スタッフたちとともに、シェイクスピア劇に取り組む機会に恵まれました。

 

「第2弾もぜひ」と海城高校さんからお話をいただき、もちろんそれはとてもとても光栄ですし、なんならこの企画をライフワークのひとつにしたいぐらいの気持ちでいますので、即答で「ぜひ!」とお返事させていただきましたが、その後、『ジュリアス・シーザー』のとてもポジティブな感触が残っていたこともあって、どの作品を扱うかの選択については実は相当に悩みました。『ジュリアス・シーザー』を毎年繰り返して上演するという可能性も魅力的に思えましたし(演じる高校生たちは毎年変わるわけなので、「今年はどんなシーザーが観られるかな?」という比較の楽しみが生まれます)、去年の段階でも候補にあげていたいくつかの戯曲、例えば『リチャード三世』『ヘンリー四世 第一部/第二部』『ヘンリー五世』『コリオレイナス』等も改めて検討してみました。今にして思えば、せっかく男子校である海城高校の生徒たちと取り組むシェイクスピア、こんな機会でもなければなかなか取り上げられなさそうな“歴史劇”をやるのが面白いに違いない、という固定観念のようなものに囚われ過ぎていたようです。

 

『ハムレット』、というアイディアが具体的な可能性として浮かんできたのは、RoMTで上演した『夏の夜の夢』が終わってからのことですから、本当につい最近のことです。

 

あくまで高校生たちが主役のこの企画、普通なら『ハムレット』は選びません。シェイクスピア全作品の中でも最もセリフの多い作品ですし、そもそもかのピーター・ブルックが言うように、『ハムレット』はあくまでハムレットについての物語。難役中の難役。プロの俳優だからといって誰でもできる役ではないし、演出家としては、ほとんど心中するぐらいの覚悟でハムレット役を任せられる俳優に出会わない限り『ハムレット』を取り上げようとは思わない(しかし一方で、ハムレットを演じるに相応しい俳優に出会えさえすれば、いつでも取り上げられるよう準備ができていた部分もあったのですが)。だからこそ今回作品選びの初期段階に自分の中で選択肢にあがってくることはありませんでした。

 

深い苦悩のうちにあったある日、なぜか導かれるように『ハムレット』の戯曲を手に取り、いま一度まっさらな気持ちで読んでみると、そこに書かれている言葉はまさに今現在の世界に向けて発せられたメッセージであるように思え、恐ろしくリアルであり、そしてふと、芸術的な妥協をせずに実現可能なアイディアとイメージが突然目の前に現れてきたのです。

 

「ハムレットが、4人います。」 

 

という。

 

これは決して小学校の学芸会における“機会均等・負担軽減”的な意味での分割ではありません。リアルな高校生たちといまこの世界の真に迫る『ハムレット』を創るならば、こうでしかありえない。そういう芸術上の、演出的な判断です。

 

彼らは同一人物なのか、まったくの別人なのか。

一人の人物の四つの異なる人格なのか。

精霊のような存在なのか。それとも、、、?

 

 

ぜひその目で、お確かめください。

 

 

田野邦彦 RoMT